2015年1月31日土曜日

【第20回】 ロシアにおける健康診断

<<<筆者注:この記事はウクライナ侵攻前に執筆したもので、現在のロシアの状況を反映したものではないことにご注意ください>>>


ロシアに赴任してみて驚いたことの1つに、頻繁に健康診断書の提出を求められることがあります。まず、第3回でも書いたように、ビザを取得する段階でHIVの非感染証明書の提出が義務付けられているます(3ヶ月以上ロシアに滞在する場合)。HIV非感染証明書は最初にビザを取得するときだけではなく、ビザを更新するときにも要求されます。したがって、ロシアで長期間生活する場合は、数カ月から数年に一度は必ずHIV検査を受けなくてはいけないことになります。

なぜロシアがここまでHIVに過敏になっているかというと、ロシアに大量に流入してくる中央アジアからの労働者の中にHIV感染者が多くいることがその一因のようです。外国人研究者のようなローリスクグループに対する検査免除規定ができれば良いのですが、一般的にロシアの法律はそのようなきめ細かな対策が行われることは少なく、現状では、職種を問わず全ての外国人労働者がHIV検査を受けなくてはいけないことになっています。

ビザ申請時以外に健康診断書の提出が求められた状況は、私の場合はこれまで3つありました。1つは大学職員寮の入寮時、2つ目が教授職の契約時、もう一つが健康保険の加入時です。ビザ申請時のHIV検査を含めると、就職に際して4回も健康診断書の提出を求められたことになります。

健康診断書には有効期限があるので、健康診断書を要求されるたびに毎回健康診断に行っていたのでは非常に非効率的です。私は同僚のアドバイスにしたがって、とりあえず健康診断書の提出を頼まれた時は、1回の健康診断で複数の要件に対して診断書を提出できるよう、できるだけ提出を引き伸ばしてきました。先週、その引き伸ばし工作もそろそろ限界に近づき、ようやく健康診断に行ってきました。

私が健康診断を受けたのは、ザボドスカヤ通り32番地にある「メディカルセンター」と呼ばれる健康診断専用の医療施設です。日本だと病院に行って健康診断してもらう場合がほとんどだと思いますが、ロシアの場合は健康診断の場合は健康診断専用の医療施設で検査してもらいます。

ロシアでは医療サービスが細かく分業されており、初診の時は初診専門の医者にかかり、診断結果に基づいて、検査が必要なときは検査専門の医師、治療の際は治療専門の医師のところへ行くことになります。簡単な病状の時は初診担当の医師に処方箋をもらって薬局で薬を買って自宅で治療する場合もあるということです。

さて、検査の前日、メディカルセンターから、検査に備えて当日の朝食は抜くように言われました。検査項目等が全く知らされないままだったので若干の不安がありますがロシア語がわからないので仕方ありません。(要求される検査項目は法律で決まっているのですが、どうせ説明してもわからんだろうということで、私の職場が説明を省いたのだと想像しています。)

また、メディカルセンターの指示に従って、近所の薬局で検便と検尿の容器を購入し、当日サンプルを持って行きました。サンプル容器の購入は時分では薬局で説明できないので、ロシア語の話せるアメリカ人同僚のP君にお願いしました。ロシアでは、検尿検便の容器は病院でもらうのではなく薬局で購入するのがスタンダードのようです。

メディカルセンターは朝8時に受付が始まります。通訳を兼ねて同行してくれるアメリカ人ポスドクのP君が「朝一に行こう」というので8時前に行って一番に受付を済ませたのですが、これは大正解でした。午前9時をすぎる頃には受付に大行列ができていました。

受付で、パスポートを見せ、検査代金の支払いを終えると、本日の検査項目のメニューを渡されました。検査代金は私は 3,110ルーブルでした。 検査項目はすべてロシア語で書いてあるため、それぞれの検査室に行くまでどんな検査が行われるか検討ごつかずなかなかスリリングでした。

メディカルセンターで行った検査項目は、検尿、検便、胸部X線撮影、各種血液検査(血液検査の検査項目は結果が返ってくるまで不明)、心電図、問診、性感染症検査の6項目でした。ロシアのことなので、さぞ風変わりな方法で検査が行われるのかと内心ドキドキしていましたが、どの検査も基本的に日本の病院と同じ方法ででした。採血も上手にやってもらいました。

ただ1つ驚いたのは、教授職の契約を結ぶのに性感染症検査があることでした。同僚のアメリカ人ポスドクのP君は、性感染症検査をかなり嫌がっていましたが、まあこれも国の規定なのでしょうがありません。(どんな感じの検査かというとまあだいたいこんな感じです。最初は嫌がっていたP君も、検査担当の看護婦さんが美人だったので、検査後は喜んでいたようですが…。)

メディカルセンターでの検査が終わった後は、近所の歯医者に移動して歯科検診を受けました。ロシアの歯医者はかなり近代的で、日本の歯医者と設備的にはなんら変わりがないように見えました。実際にネット上の意見を見てみても、ロシアの歯科医療のレベルは高く、むしろロシア語が出来る人は日本よりもロシアで歯科治療を受けたいと考える人もいるようです。

とりあえず、そんなこんなでおおよそ3時間半程度で全検査が終了し、健康診断書は一週間後に出来上がるということでした。

健康診断自体は無事終了しましたが、最後の問診で、血圧が高いと言われてしまい、当面弱めの降圧剤を飲みながら毎日血圧を測って経過観察し、状況が改善しなければ精密検査しましょうと注意を食らってしまいました。海外で研究者生活するためには、一番大切なのはやはり健康です。問診をしてくれた医者が降圧剤と血圧計の処方箋を書いてくれたので、その日のうちに同僚に連れられて薬局に降圧剤と血圧計を買いに行きました。この辺の高血圧関係の話はいろいろと後日談があるのでまた機会をあらためてお話したいと思います。