2018年8月30日木曜日

【第66回】定年退職のない職場と年金問題

私の職場には定年退職の規定がありません。そのため多くの大学教員が日本の定年退職年齢を超えても現役で働いています。アメリカの大学でもテニュアを持っている人は高齢になっても働き続ける人は少なくありませんが、私が知っている範囲では、そのような場合、講義や院生の指導を行わないなど、若い時とは働き方が変わり、給料も減額される場合が多いように思います。

一方ロシアでは、70才を超えて講義を持つのは普通ですし、役職についている人も少なくありません。私が赴任した当初の大学附属天文台長も76才でしたし、当時58才だった同僚が学部の時に講義を受けた教授が80代後半で現役でした。私の所属する学科の学科長は55才ですが、もしかすると学科の中では平均年齢以下かもしれません。

長く働ける職場環境であることは研究者にとっては、ずっと興味のある研究を継続できるという意味で良いのですが、同僚たちの話を聞いていると必ずしもポジティブな反応ばかりではありません。ネガティブな反応として、まず最初に挙げられるのが「年金が少ないから辞められない」というものです。年金額は人によって様々なようで、連邦大学職員だと支給額が月5000ルーブルといった場合もあるようです。こうなるととても年金だけでは食べていけませんから働き続けるしかありません。

職場を見渡してみると、高齢でも講義を続けている元気な人もいる一方で、言葉は悪いのですが、ほんとうに「ヨボヨボ」な感じで、職場に来てお茶を飲んでおしゃべりして帰っていくだけ(に限りなく近い)人もいます。しかし、ロシアでは職場の同僚との関係を非常に大切にするので、あまり仕事ができない高齢者が職場にいても誰もそれを咎めませんし、その人たちが仕事できない分は他の人達がカバーしている感じです。とはいえ、もし生活する上で十分な年金が支給されていれば、体力のない高齢者は、おそらくリタイアして自宅で家族と一緒に平和な老後を過ごすのではないのかなという気はします。

高齢スタッフが働き続けることと関連して、若い研究員からは「ロシアの大学ではポストがなかなか空かなくて困る」という意見を聞いたこともあります。上で述べたように、うちの職場もスタッフの平均年齢が高く、若い人がもっと入ってくるべきなのですが、空きができないのでなかなか新規の人が就職できません。

とはいえ、私が面白いと思うのは、日本だとこういう状況になると高齢スタッフにかなり攻撃的な発言をする若手が出てきそうですが、私の職場では、若い人も中堅の人も、皆さん基本的に高齢者にとても優しく接しています。困ったことがあったら助けてあげているし、仲間としてリスペクトしている感じがします。例えば、75才、80才などの節目の誕生日を迎える同僚の誕生日パーティーはうちの職場では欠かせない行事です。こういうパーティーの時、高齢のスタッフも一切遠慮はありませんし、誇らしげに子供や孫を職場のパーティーに連れてきます。ロシアの年金問題は難しい問題ですが、しかしそれが職場で世代間の不協和音につながらないところがロシアとその文化の興味深いところです。

職場の誕生日パーティーの様子

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