2021年11月28日日曜日

【第70回】中国で研究職(ファカルティー職)を得る方法(私見)

中国の中山大学に赴任してから早いもので2年になる。私が移籍した後も、日本の研究者の間で中国移籍への関心がさらに高まっているようで、目立たないようにひっそりと生活している私のような研究者のところにも移籍に関する問い合わせがときどき舞い込んできたりする。過去2年の間に、もうかれこれ10回近くは中国移籍に関する質問に対してメール等で返事しただろうか。という訳で、今後の(時間節約の)ために少しここに私見をまとめておこうと思う。

私は日本の研究職に対する就職活動をほとんど行ったことがないので、日本の就活の状況と対比して中国の状況を語ることができない。私が個人の経験をもとに比較できる対象としてはアメリカやヨーロッパ等に対する就職活動しかないので、そこから話を始めようと思うが、実のところ根本的なところでは中国への就職活動と、欧米への就職活動と間に大きな差は存在しない。研究職の就職活動として一番基本であるところの、研究者としての実績と経験を積み、就職希望先の要望とマッチするような研究計画を作り、書類選考で選ばれたら周到に面接の準備をして上手くアピールするみたいな部分は全く同じである。中国就活の特徴が出てくるのは、もう少し別の部分だと思われる。

自分が中国に対して行った就職活動の経験と、赴任して以降、人事選考過程を内部から見てきた経験等から判断して、中国の研究機関に就職活動を行う上で鍵となってくる要素は主に以下の2点だと考えている。(念のためもう一度強調しておくと、以下の話は、既にある程度の業績があることを仮定した上での話である。)

  1. 採用された場合に確実に着任するという印象を選考側に与えられるかどうか
  2. 欧米経験があるかどうか

最初の点について、端的に言って中国に一度も来たことのない人にオファーが出る可能性はそれほど高くないというのが私の理解である。私の職場に関して言えば、過去に中国の大学へ留学した経験や、中国の研究機関でポスドクとして働いた経験がない人に対しては、現在実質的にオファーを出していない。理由は単純で、中国未経験者のオファー拒否率が高いからだ。もともと、中国未経験者のオファー拒否率は高かったようだが、コロナの影響でさらに最近拒否率が上がっており、事務的な負担が増えてしまったため、拒否される率が高いカテゴリーの人には当面の間オファーを出さないということになっている。

したがって、もし中国へ移籍を希望する人で、上記のような中国経験を持たない人は、まず中国の大学を訪問するなどして、中国に来ることに抵抗がないことを行動でアピールすることが就活の前提条件として必要だろうと思われる。現状ではコロナ禍の影響で、中国へ来ることは難しいように思われるかもしれないが、これは逆に言うと、うまく状況を利用すれば他の候補者と差をつけるチャンスでもある。2週間の隔離を覚悟の上で中国へ来て、1-2ヶ月ほど中国内を渡り歩きながら、幾つかの大学でまとめてセミナーするというのはかなり効果的な就活だと思う。

2つ目は欧米経験の有無である。うちの職場を含め、中国の大学にファカルティー職として採用される外国人を見ていると、母国以外で働いたことがない人はかなり少数派だ。うちの職場に限っては、ほぼ全員が欧米経験(留学または就職)を持っている。この状況から判断して、欧米経験を持っていることが有利に働くことはほぼ自明である。ただし、例外として、中国外で既に確固たる地位(テニュア付きの教授等)についている人の場合は、移籍に成功しているケースもある(私がこのケース)。実績を見ている限り、中国未経験の日本のポスドクが、中国のファカルティー職に応募しても、おそらく現状では採用されるチャンスはそれほど高くないと思う。

あと、特に中国に限ったことではないが「分野のマッチング」は重要だと思う。私が現職場に就職したときは、専門分野を拡張したいということで既にいるメンバーの専門と被らないことが条件だったようだ。これもマッチングの一つの形態である。一般的には現在既にいる教員との分野的マッチングが重要となるケースが多いだろう。いずれにせよ、研究機関ごとにターゲットなる人材の特徴が異なるので、就職希望先のファカルティーメンバーと連絡をとって、必要な人物像を事前に調査しておくことは必要だと思う。中には中国の大学の方から特定の候補者に声をかけるような場合もあると思われるが(実際に、有力な候補者に声をかけることが奨励されている)、こういう場合は既にマッチングはとれていると考えて間違いないので、採用される確率はかなり高いだろうと想像する。

とりあえず、今のところ私が考えていることは以上のようなことである。多少なりとも参考になれば幸いである。