2018年8月13日月曜日

【第56回】ロシアに天文学者は何人いるか

「ロシアには何人くらい天文学者がいますか?」という質問を時々もらいます。私も同僚のロシア人に同じ質問を何度かしたことがあるのですが、ロシアには日本の「日本天文学会」に相当するような全国規模の天文学者の団体が存在しない関係で正確な天文学者の人数がわかりません。しかし、概算では、おおよそ150人から200人程度ではないかという話を聞いたことがあります。

天文学者が複数所属している大学や研究機関はロシアではごく限られており、それらの機関に所属する学者で全体の人数の少なくとも8割から9割程度を占めていると考えられるので、それらの研究機関に所属する研究者の人数をもとにした150人から200人という同僚の推定はそれほど見当違いではないでしょう。

ロシアで最大の天文学研究機関はモスクワに本部が設置されているロシア科学アカデミー天文学研究所(Институт астрономии РАН)です。この研究所は大型可視光望遠鏡を備える観測所や観測衛星プロジェクトも抱えているため、常時100人以上のスタッフが勤務しており、間違いなくロシア最大の天文学研究所です。

科学アカデミーの天文学研究所以外では、モスクワ大学、サンクトペテルブルク大学、ウラル連邦大学の天文学関係学科の規模が大きく、それぞれ数十人ずつのスタッフが在籍しています。ただし、ロシアの大学には講義のみを行い先端的な研究は行わないスタッフも多数存在するので、その人達を天文学者と呼ぶかどうかで天文学者の人数は大きく変わってきます。ここに挙げた4つの研究機関以外にも天文学者が所属する大学はいくつか存在しますが、その多くは1人ないし多くても数人のスタッフが所属しているのみです。

ロシアで行われている天文学の研究分野は、私が知っている範囲では、星形成関連、超新星や新星などのトランジット天体関連、電波観測衛星プロジェクト関連、各種理論系の研究等で、外国と積極的に共同研究するというよりはロシアの中だけで閉じて活動しているという感じが強いです。ロシア語を媒介とした研究会は多くロシア国内で催されていますが、天文学分野については大規模な国際研究会がロシアで開催されることは稀です。

経済が発展途上にあるロシアでは若い人はどちらかというと「実学志向」で、学業成績が一番優秀な学生は、国の特別の奨学金をもらうなどよほどの理由がない限りは基礎科学分野には進学してこないようです。したがって、天文学専攻の教員は「良い学生が来ない」と嘆いている人が多いです。

とはいうものの、そこはソ連からの科学研究の伝統を持つロシアなので「良い学生が来ない」と教員がぼやいている割には、天文学科に進学してくる学生の基礎学力は比較的しっかりしているという印象を個人的には持っています。今後、政府の基礎科学分野への予算的な補助が増えてくれば、ロシアの天文学ももっと盛んになってくる地盤はあると思います。

天文関連学科が入っているウラル連邦大学自然科学研究所
(2018年8月撮影)

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