2018年8月23日木曜日

【第62回】教育専門スタッフとの微妙な関係

ロシアの大学で教員が学術的な研究を活発に行うようになったのは比較的最近になってからの話です。ソビエト時代には、高等教育と学術研究は、それぞれ大学と科学アカデミーの2種類の機関で別に行われていたため、ソ連崩壊後もその名残が残り、大学においては学術研究はあまり活発には行われてきませんでした。

しかし、最近になってロシアの大学も世界的な評価を気にするようになり、イギリスの教育雑誌などが発表する大学ランキングで少しでも上位に入るよう、評価の重要な指標である学術研究にも徐々に力を入れるようになってきました。私のような外国人スタッフを雇用し始めたのも、大学における学術研究を活発化させることが目的の一つだと考えられます。

しかし、大学における研究活動を国が重要視するようになってくると、どうしても教育を専門に行なってきた教員たちは「もしかすると職を失うのではないか」という不安を感じるようなのです。私が赴任した年にも大規模な「研究重視政策への反対集会」があり、学内だけでは収拾がつかず、モスクワの露文科省から高官がやってきて教育専門スタッフとの対話集会が行われました。

この問題、外国人スタッフである私にも影響がないわけではありません。私は教授職なので、本来は講義を担当する義務があります。実際にシラバスを提出し、講義紹介のビデオ撮影も行いました。しかし、今のところ、時折単発で分野紹介の授業をすることはありますが、本格的に学期を通じての講義を担当することはなく、実質的に研究専門職のような形で勤務しています。

この状況について、一応大学側からは「英語で行われる講義には学生が興味を持たないので授業登録してくる学生がいない」という説明を聞いたのですが、いくらロシア人の学生が英語が苦手とは言え、3年にわたって一人も授業をとらないというのは不自然ですし、実際にはもう少し異なる理由が背景にあるのではないかと推測しています。

身近な同僚たちと話をしていると、どうやら教育を専門としているスタッフの中には、教育と研究を両方行いロシア人よりも高い給料をもらう外国人スタッフをよく思わない人たちが一定の割合存在するようなのです。自分たちの立場を脅かす存在と捉えられているのかもしれません。

何れにせよ、今後新しく採用される教員は、外国人だけではなくロシア人スタッフについても教育と研究の両方の能力が期待されるようになるはずですし、時間が問題を解決してくれるとは思いますが、現時点では賃金差の問題も含め、ロシアの高等教育現場に横たわるデリケートな問題の一つとなっています。

学生相手に分野紹介の授業をしている私
(2013年12月撮影)

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