2022年5月14日土曜日

【日記】2022年5月13日(金) 、ようやく始まりつつある科学的な議論、惑星状星雲から見つけた水素ガス

EHTグループによる「大発見」の記者会見が昨夜行われたせいで、朝Twitterを開けたらドーナツみたいな画像が沢山タイムラインに流れていた。とりあえず、昨日の日記にも書いた通り、私個人の意見としては、研究者の間で十分な検証が行われていない真偽不明の研究結果が世間一般から「大発見」としてもてはやされる状況はあまり良いとは思えない。これに関して一つ良いニュースは、水曜日の日記に書いた「EHTグループの結果に対して異論を唱える論文」がこの2日ほどの間に世界中の研究者の間に出回り、ようやく科学的な議論が行われる雰囲気が出てきたことだ。

さて、研究成果というと、うちの研究グループの学生さんが新しい論文を出版した。私も観測戦略立案や解析手法、データの解釈等でアドバイスさせてもらった関係で著者の一人として名前を入れてもらっている。中国の500メートル固定球面望遠鏡(FAST、中国語名「中国天眼」)を用いて、惑星状星雲から中性水素21cm線の吸収線を検出したという内容。


惑星状星雲は、中小質量の星(太陽程度の重さの星)が進化してできる天体だ。星は惑星状星雲へと進化する過程で、その質量の大部分を宇宙空間へと放出することが知られている。質量が宇宙空間に放出されるのだから、惑星状星雲の周りをよく観察すれば放出された物質が見つかるはずだ。しかし、これがどういう訳かなかなか惑星状星雲の周りに放出されたはずの物質が見つからず、天文学者の間では「ミッシングマス問題」と呼ばれている。ミッシングは「行方不明の」、マスは「質量」といった意味である。

今回のFASTの観測は、この行方不明の質量、ミッシングマスを探すことが目的である。惑星状星雲から吹き出された物質には多くの水素ガスが含まれるはずなので、水素ガスが放つ電波をFASTで検出しようというアイデアだ。できれば、どれくらいの量の水素ガスが宇宙空間に放出されたを計測したいという野心もある。

ただこの観測、技術的に困難な面も多く、なかなか大変な研究ではある。とりあえず手始めとして、今回は数個の惑星状星雲を観測し、そのうちの一つから水素ガスらしきものを見つけたというわけだ。派手ではないが、確実な研究の前進である。論文を出版した学生さんもやる気満々で、さらなる惑星状星雲から中性水素21cm線を見つける観測を計画している。今後の研究の発展が楽しみである。

論文から抜粋した図

中国語学習

単語と例文の暗記(10分程度)